中原の舞台袖彫刻

　舞台の袖の一部で、「伏島家の舞台袖彫刻」（市重文）と一対となるものです。
　使用材はケヤキで、寸法は、欠損部分が多いため、全高・全幅とも不明です。
　『郷土史抄』（福田英一著　明治29年刊）によると、「徳川幕末時代から明治にかけて、農村芸術のひとつに旧藪塚村に村芝居が組織されていた。立派な舞台があって、春秋の鎮守様の祭典やお正月には慰安のため芝居を催した。これが唯一の娯楽であったが、藪塚連合村ができた頃に、この舞台は藪塚各字に分配してしまった（後略）」とあることから、農村芝居の舞台の一部であることがわかります。この時に、舞台の袖を藪塚の中原・杉塚地区、舞台を湯之入地区、襖を台・滝之入地区に分けたと言われています。
　旧藪塚村は、杉塚（寺下を含む）・中原・台・滝之入・湯之入地区で構成されており、明治9（1876）年3月に新田藪村と、同年11月に西野村と合併しています。したがって舞台が分けられたのはこの頃と推測されています。
　この彫刻は、保管箱の墨書から、旧山之神村（現太田市山之神町）在住の岸亦八により、明治6（1873）年以前に作られた作品であることがわかります。一部欠落しているものもありますが、保存状態がよく、初代亦八の作品としても優れたものです。